国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
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第2回総会記念シンポジウム

コーディネーター 北口末広(近畿大学教授)
パネラー 横田洋三(中央大学教授)
  辻野 功(京都造形芸術大学名誉教授・日本文理大学教授)
  畑 律江(毎日新聞社 学芸部副部長)

北口:
 本日は、国際人権大学院大学の必要性等について、それぞれの立場からお話いただこうと思っております。
 先ほど横田先生から国際的な人材ということを中心に基調報告いただいたわけですが、私も、国内的にそうした人材が求められているように思います。また、日本の大学では人権あるいは人権論に関する講義がほとんどないといったお話をされましたが、国際人権を包合したようなものは少ないなど確かにそのとおりだと思います。国際人権大学院大学で有能な人材を作っていかないと、日本の国際貢献というのが遅れてしまうのではないかと非常に感じました。
 本日、3人のパネラーの方にお越しいただいておりますが、辻野先生には、実際に大学を作った立場で国際人権大学院大学を作るときに、どのようなプロセスが必要なのか等についてお話いただきたく思います。畑さんには、マスコミの立場から国際人権大学院大学の必要性についてお話いただきたく思っております。
 まず畑さんから、国際人権大学院大学への期待・必要性について冒頭の発言をお願いいたします。

畑: 
 畑と申します。約20年間の新聞記者としての体験からお話させていただきたく思います。この大学の構想を伺った時、そういう場所があれば私も勉強したいなというのが私の最初の感想です。
 先ほど、横田先生のお話の中で再び学ばなければいけない人の中にジャーナリストが入っており、これは絶対そうだと最近思います。新聞社の場合、警察担当や考古学担当などの記者がそれぞれの持ち場で取材をしておりますが、人権問題が私たちと直接接することが多いにも関わらず人権担当というものはありません。
 今までの例では、人権について個人的に関心のある記者が、普段の持ち場の仕事の合間にその時間を利用して取材をしたり、それぞれの持ち場の中で人権に関係するテーマが出てきたときに、それを取材するというのが大体の状態です。
 私の会社では、本社や支局、部の違う人間の中で人権問題に関心がある者が自発的に集まり取材しようと、人権プロジェクトというものを立ち上げたのですが、日々の仕事に追われるなどなかなかうまく機能しません。
 また、どちらかと言うと、これまで人権問題を専門にやりたいと言っている人は、どこか異端児扱いされたりなど、割合孤独な戦いを強いられるのが現状だったような気がします。
 ところが、最近は先ほどの横田先生の基調講演の中でもヒトゲノムや医療、ITの問題などが出ていましたが、身近な女性問題をはじめ、私たちが担当している全てのテーマに人権問題が関わってくるのが現状です。
 それで、私は人権担当記者という持ち場がないのであれば、例えば私が何の担当記者になっても、それぞれの持ち場で人権問題を見る眼を持った仕事をすればいいのだと思ってきた訳です。つまり、人権記者というのは持ち場の問題ではなく、取材する対象にどういう構えで臨み、またそれを報道するかといった、いわゆる姿勢を持った記者のことを言うのだろうと思ってきました。
 ただ、最近は果たしてそれだけでいいのだろうかという気がしています。というのは、それぞれの分野に非常に深い複雑な人権の問題が絡んでいるのに、それを発見し、そうした構えで取材できる記者が果たして育つのかということが疑問に思う部分があるからです。
 例えば、人権問題の一つの分野に関心があるからといって、他の人権問題に対する眼がなければ記事も妙な事になってきます。卑近な例でいいますと、今、子どもの虐待が話題になっておりこれをテーマにしたとき、子どもの虐待はいけない、あるいは手元に子どもを置き、暖かい家庭を作る事が子どもの人権のためであるなどといった記事を書いておりますと、一方で、では女性の自立はどうなっているのかと、あちらを立てればこちらが立たずといった、非常にシンプルな綱引きのようになる訳です。
 もっと言いますと、例えば、最近被害者の人権を守らなければならないと言いますが、被害を受けた人の人権を守るために容疑者、加害者を厳しく断罪すればいい、皆の前に実名をさらせばいいなど、本来あちらを立てればこちらが立たずといった関係であってはならないものが、非常に悪い関係となって報道されかねないという気がします。何か一つ、例えば在日外国人の問題に詳しい、女性問題に詳しいといった人はおりますが、そうした点で何かがスポッと抜けているような怖い気がする訳です。

 また、国際的な視野を持っているかということも大事だと思います。例えば、日本の女性の問題をやっていますと、日本の女性が世界女性会議などに参加したとき、私たちは職場などでこんなに差別され、苦労してきたということを報告しても、いわゆる発展途上国のアジアやアフリカの女性から見ると、日本の女性はものすごく豊かな訳です。そういう絶対的な豊かさを私たちは享受している、だからといって日本に帰って会社や家庭の中を見れば、やはり男性に比べて経済的に貧しいといえます。これらから、絶対的な豊かさの反面、男性と比べて相対的に貧しいという両方の面を持っており、そのどちらか一方だけをやればいい訳ではないと言えます。
 そういう点で、個別的な人権問題に詳しい記者も当然必要ですし、ある程度育ってきたと思うのですが、人権問題を総合的に横断してみられる記者、つまり総合性と個別性の両方を備えている人材を作る必要がある訳で、恐らく今回の人権大学院大学は、私などにとっても非常に有難い存在になるのではないかという気がしています。

 もう一つ、私が人権の問題で一番関心があるものは、ジャーナリズムと人権の問題です。マスメディアは第4の権力などと言われていますが、取材や報道される側の人権侵害というのが非常に言われています。例えば、いろんな犯罪が起こりますと、当事者の家に大勢の記者が押しかけ、日常生活に支障を与えてしまうことなどです。これはメディアスクラムと言われています。
 これら報道被害の問題がいろいろ言われるようになり、メディアに対する市民の不信感が強まっているような気がしますし、市民がメディアに対して常に不満を持っている状態というのは、メディアに対する国家権力の介入が起こるといったことが言われる訳です。本来、報道や表現の自由というものは守られるべきなのですが、最近は、個人情報保護法案などもあり、新聞メディアのみならず、テレビや出版全てが公権力と市民との板挟みになっているような気がします。本来、ジャーナリズムというのは、人権を守り、市民とともにパートナーとして進んでいくべきものと思い、私は仕事をしているつもりですが、それが危うい状態にならないかという気がする訳です。そうした時に、まず人権問題が分かる記者を再教育することが一つと、記者と一緒にパートナーシップを組んで、より良いメディアとはどうあるべきかを主体的にパートナーとして共に考えてもらえるような市民やNGOなどが育ってほしいという気がします。
 最後に、アカデミズムの世界、大学などで研究された様々なジャーナリズムに関する研究成果が、必ずしも現場の新聞社やテレビ局に反映されていない気がしますので、そうしたジャーナリズムとアカデミズムが交流していけるような場が、このような人権大学院大学を拠点に生まれてきたらいいなという気がします。

北口:
 ありがとうございました。
 私自身も感じることですが、プライバシーや個人情報が大事だということを当然私たちも主張してきましたが、表現の自由が侵されるという辺りの考え方をどう整理するかということが非常に重要になってきていると思います。
 次に、横田先生からご発言いただきますが、先ほど、横田先生の基調報告の中で、国際人権や人権問題に関わる人間は情熱が必要であり人格の問題もある、さらに実際にシステムを作っていく構想力や企画力、実行力が必要ということを言われましが、そういう人材を作っていくためにどういう内容のカリキュラム、教育内容が必要なのかをもう少し具体的にご発言いただきたいと思います。

横田:
 私もそのカリキュラムのことも考えてみたのですが、指し当たって2年間の修士課程というものを想定しております。いま畑さんが話されたような、ジャーナリストとして少し専門的な知識を身につけたいというような時には、修士課程が一番いいのではないかと思います。
 修士課程を一応念頭におきますと、基礎科目、関連科目、専門科目、研修・インターンと大きく4段階に分けまして、まず、基礎科目は、人権の考え方の歴史や世界各国の人権状況など人権一般について、そして私は女性学のようなものは必修であり、全員が取る基礎科目でやっていいと思っております。その他に憲法、国際法や国際会議の理論と実践といった科目を、できれば英語を使ってどういった文章をいかにして作っていくか、いかに議論するかというようなことを実践的に訓練するようなものを、この基礎科目の中に入れてもいいのではないかと思っております。やり方はあるのですが、日本の大学ではめったにありませんので、それがあるといいなと思っています。
 関連科目は自分に関心のあるところを取るという選択になります。内容は、法律学の一般知識や裁判所法などです。これらは、先ほどの基調講演でもお話ししましたが、人権に関わる部分でいいので少し知識として持っておく必要があると思います。ほかに世界各国の比較憲法のようなものや人権に係わる国際経済学などです。人権のための自然科学、医学、物理学や社会学などのようなものも勉強できるといいと思います。
 専門科目は、人権に関するテーマは全部入ります。子どもの人権、女性や少数者の権利、外国人や障害者、被後見人の人権、国際人道法、人権と戦争、人権と開発、人権と環境、あるいは国際刑事裁判所論、地域人権裁判所論(欧州人権裁判所のようなもの)や企業と人権、人権とNGO、こうした科目を並べていいと思います。これも選択となります。
 最後に、研修・インターンですが非常に重要であると考えており、仮に、インターンとして2ヶ月間国連関係の人権事務局、あるいは難民高等弁務官事務所が扱っている難民キャンプなどの場で実習を体験してくるということです。この制度は、国連機関もインターンの制度を持っていますので、受け入れは可能です。そのための準備やアレジメントを大学院の方で行い、費用は多少本人負担ということにならざるを得ないと思いますが、それほど高額ではありません。事前の勉強を行ない、現地で2ヶ月なり研修をして帰り、報告書を提出することで、例えば、単位を4単位与える仕組みをやってみてはと思います。
 以上のようなことを私は考えております。

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