北口:
ありがとうございました。
私は、横田先生のお話を聞いておりまして、学位が出ないということ、特にアメリカなどは、マスターかドクターかそれによって給与体系も違うし、非常に大きな問題だと思う訳ですが、現在大阪において、子どもの虐待などをテーマに、民間のボランティア、子ども虐待防止アドバイザーを養成する目的で、子ども情報研究センターが9月から来年の2月にかけて講座を開いております。内容も実践的で、それを終えると知事の修了書が授与されます。また、社団法人部落解放・人権研究所で、既に3,000名を超える部落解放人権大学講座の修了生がおられ、この講座も非常に充実しておりますが、公的な資格ではありません。そこで、例えば、大学院大学ができるまでは、学位が出なくても、一定の世の中に通用する資格のようなものが考えられないかと思うのですが、その点についてご意見をお聞きしたく思います。
横田:
いまお話されましたように、まず学位や形式よりもやはり内容がしっかりしていて、実力がついて、それを修了したことによって、その分野についての経験とか知識が深まっているということが一番大事なことです。
いまの大学の問題点は、そういう力をつけないうちに安易に卒業証書を出して学位を与えているところにあると私は思います。そういう意味で安易に出していいとは思っていません。むしろ、学位は出さないが内容のあるいいプログラムをやっているということであれば、それはそれでいいと思います。ただ、どうして皆が専門学校よりも大学を選考するのかと言えば、やはり学士号がもらえるという一つのインセンティブがあり、実力が伴えばやはり学士号などがあった方がいいということを一般的には考えます。それが公に認められた資格だという意味で、私は長期的に見た場合にはこういうものを大学院大学にする場合には学位ということを考えた方がいいと思います。その前の段階で、まだ学位を出すような大学院がすぐには作れない場合に、まず中身を充実させ、そして実績を積んでいくという意味で、いまお話されましたプログラムは大変意味があると思います。例えば、一応修了証書という形で組織の長が名前を出すと。これを修了しましたということは、勿論、履歴書とかにも出ますから、それはそれでいいと思います。そういう形で一つのステップとして、私は非常に意味があると思います。
辻野:
その通りなのですが、少し追加させていただきます。やはり国際仏教学大学院を関係者一同視察に行かれた方がいいと思います。ここは母体になった国際仏教学研究所が研究と講座をされています。だから人権大学院大学においてもいろいろな講座で、研修の修了証書を出すという活動とともに、研究も行ない、その報告書が英文などでも出すといった蓄積と、もう一つ、図書館といいますか情報センターのようなものをつくり、人権関係のもので普通の大学にはないような情報まで揃っていて、どこの大学院に所属していても人権のことを勉強するためにそこに一度行かないといけないようなものを考えられるといいのではないかと思います。
北口:
ありがとうございます。国際仏教学大学院は、もともと研究所があったということで、この国際人権大学を提唱した部落解放・人権研究所と大変よく似ていると思います。資料の蓄積、これまでの講座、さらにそういう講座を組んできたことによる教育者のネットワークといいますか、そういうものはすべて整っていると思います。
今年の課題として、国際仏教学大学院に一度視察に行きたいと思います。
もう一つ、辻野先生にお聞きしたいのですが、先ほど通信制の話がありましたが、その辺のお話をもう少し詳しくしていただければと思います。これは財源も、学び方も含めてお話いただきたく思います。通信制と国際人権大学院大学との関係で、一言お願いします。
辻野:
去年から、京都の仏教大学において日本で初めて通信制の大学院ができた訳ですが、これも研究に値すると思います。
恐らく、規制緩和で授業に行かなくても全部単位が取れる世の中になると思いますが、実際は、教育には対面授業は不可欠であり、年間何十週かのスクーリングは規則でなくても実際は皆来るようになると思います。通信制の大学院は夜間も含め需要は高いと思いますが、通信制は極端なことを言えば日本中から来られますので、いくら梅田に置いていてもアフターファイブに来られる範囲は限られています。さらに、多分単位制になって授業料の1年間いくらではなく、1単位いくらということで、自分の人生計画により4年で卒業するか8年で卒業するか、いろいろ自分で選べるような時代がすぐ来ると思います。
もう一つ、こういうことの設置のプロになりうるような若手の人を事務に1人育てなければダメだろうと思います。そういう方が偉い人と一緒に見学にも全部行って、文部省にも足繁く行ったりすることが苦にならなくて、自分の一生の夢がここに託せるという、そういうような30代までの人を1人、肉体的にも健全な少々のことでは倒れないというような人が、大体大学つくりには不可欠なものでありますので最後に申し上げます。
北口:
ありがとうございます。20世紀の最後に日本でも人権教育・啓発推進法ができ、また1995年から「人権教育のための国連10年」の行動計画が各地でできていきました。そして、21世紀は企業にとってはサービスで儲ける時代と言われています。サービスというのは、人が人に対して働きかける時代、そしてグローバル化ということを考えてみた場合に、まさに人権ということを抜きにした経営は成り立たないと思いますし、これは他の分野でも同じだと思っております。
私の大学では、ロースクールの2004年度開講を目指しています。いま司法制度改革推進審議会の6月答申を受けて、司法制度が変わっていく中で、かつて500人の司法試験の合格体制が今は1,000人、これが3,000人になると言われ、司法のあり方も大きく変わっていくと思いますし、それに付随する形で今まで述べていただいたように、人権に対するとらまえ方、取り組み方も大きく変わっていくと思います。そういう意味で、この国際人権大学院大学が、どんな形でステップを積み上げていくのかが、求められていくと思います。私はここで是非申し上げておきたいのですが、諦めたときが終わりだと思います。
当初のとおりにできなくても何らかの形で成果ができていく。あるいはよりすばらしいものができていくという可能性があると思います。その萌芽というのはいくつかあります。
先ほど紹介した、子どもの家庭における人権をサポートする、そういう講座を組みますと、100人の募集に対して、予想以上の反響で100人をはるかに超えて今断っているというような状況があります。それだけ、やはり学びたい、あるいは貢献したいという人が多いと思います。そのことがまた自分の仕事とも結びついていく時代にも入ってきていると思う訳です。そういうことを踏まえて、お三方に国際人権大学院大学の創造を目指して、一言ずつ締めくくりの言葉をいただいて、今日のパネル・ディスカッションを終えたいと思います。それでは、横田先生からメッセージをお願いしたいと思います。
横田:
私は、人権というのは特別のことではなく、実は日常的なことで我々が常に理解し実践してなくてはいけない問題だと思います。
ところが、企業や官庁などに行きますと、自分は人権をあまり専門にやってないからと、何か問題が出てきたときに、誰かこれをやれる人がいないかということで探すといったことがあります。そういう意味で、同じ人権ということを考える場合、一般の人、小学生、もっと若いころから日常的に行うべき人権教育と、企業や責任ある地位にいる人、官庁や警察官になる人、自衛隊員になる人などが教育を受けて、間違った権力の行使をしないようにする、この2つは同じ人権教育や人権啓発活動と言っても分けて考える必要があるだろうと思います。
大学院でやるべきことは、その両方に係わることになりますので、例えば小学校の先生や家庭の主婦でも、子どもの人権について少し知りたいと思ったときに、先ほどの辻野先生が話された通信教育は非常にいいと思います。家庭の主婦も子どもの人権を考えたときに、いろいろと迷う人がたくさんおられると思います。そういうときに、大学院のひとつの科目でこうしたものがあって、それを通信で勉強できるというような道も開いていいのではないでしょうか。
何か特別な人たちを育てるためだけのプログラムのように考えられると、人権のためによくないと思います。人権というのはやはり、一般の皆がわかって行動できることと、専門家が間違いのないように押さえるところと、その両方をやっていかなくてはならないと思いますので、この人権大学院を構想する場合に、その両方に目配りをしていっていただきたいと思います。
畑:
私は大学などにおいて取材体験や人権、差別の問題について、若い女性たちの間でお話をする機会があるのですが、若い方の前で話をしていると、暖簾に腕押し状態というか、本当に分かってもらえているのかなと言いたくなるような反応をされます。
自分が社会に出て行ってどういう問題に出会うのかというのがもうひとつ具体的ではなく、女性に生まれて楽しいとか、楽に暮らせて毎日がうれしいみたいな反応をされる方が多く、私はいったい何を話して帰ってきたのだろうと思うのです。ところが、私の知り合いの先生たちからお聞きするのですが、卒業生たちが、職場でいろいろな問題にあったり、結婚や子育てなどでいろんな障害にあって、そのとき初めて分かったと。先生が何を言おうとしていたのかが今なら分かると。世の中には本当にひどいことが放置されているのですねということが分かるというふうに言ってこられる卒業生が結構おられると。その人たちは多分熱くなってる鉄だろうという気がするのです。だから、鉄は熱いうちに打てといいますが、今なら学べる、今だったらどんな勉強しても頭に染み込むという時期が必ず人生の中に1回や2回来るだろうと思いますので、そういう時にいろんな意味で学べるような、変えていけるような、問題にぶつかったときに、水が染み込むように知識を染み込ませられるような受け皿になってくれる場所であってほしいと思います。
辻野:
大学や大学院を作るときに、有能で志のある若い人材をいかに見つけてくるかということだと思います。若手の研究者や事務ないし経営を将来担える人。こういう人を2〜3人見つけ、彼らの将来の仕事や夢みたいに思わせたら勝ちだと思います。秘訣であります。
北口:
ありがとうございます。物事を作っていくのは最終的には人であると私も思います。先ほど横田先生が基調報告で情熱と熱意をもった人材が必要ということをお話されました。まさにそのとおりだと思います。私自身も、最後まで諦めずに国際人権大学院大学の設立を目指して頑張ってまいりたいと思います。
本日、基調報告で貴重な報告をしていただきました横田洋三先生、そして畑さん、そして辻野先生には、このパネルディスカッションにおいて本音で貴重なご意見をいただきました。これを糧に今年1年、そして府民会議の活動をさらに強めて、来年にはもう少し具体的なことが言えるような状況を作ってまいりたいと思っています。
お三方に改めてお礼を申し上げて、拍手をお願いしたいと思います。ありがとうございました。
(文責:事務局)
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