国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
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2009年度海外調査報告

テーマ  コロンビア大学・マサチューセッツ州立大学における大学院レベルの人権プログラムについて
講 師  山下 梓さん(人権市民会議)


1.はじめに
2.コロンビア大学のプログラムについて
3.マサチューセッツ州立大学のプログラムについて
4.結びに代えて

【1.コロンビア大学のプログラムについて】

 コロンビア大学は早くから人権教育を提供しており、1978年には人権研究センター(Center for the Study of Human Rights)が学内に設置されている。同センターには、学内の人権に関するさまざまな分野??政治学、法学、公衆衛生学、歴史学等の研究者が所属し、学部(undergraduate)も含めたコロンビア大学の学生に対する人権教育の提供、学際的学術研究の促進、世界各国の人権活動家・団体に対する人権のキャパシティ・ビルディングに関するスキルの提供を主な目的とし、研究や会議、人権活動家のための研修プログラムの開催等を行っている。
 1998年には法科大学院に人権研究所(Human Rights Institute)が設立。法科大学院における人権に関する授業のカリキュラム作成、法実務家と研究者を対象としたシンポジウムや講義を開催する他、人権問題と人権法に精通した教員の監督下で学生がクライアントから依頼のあった実際の問題を担当する実践的なゼミ形式のプログラムであるHuman Rights Clinicを通じた実践的経験を積む場の学生への提供等を行っている。センターと研究所は連携関係にある。

2-1 法科大学院のプログラム
【プログラムの概要】
 人権を冠する学位は授与していないが、法科大学院で学ぶLL.M.(法学修士)とJ.D.(法務博士)課程に在籍する学生に対し、法科大学院や他学部(departments)が開講する人権関連の授業やHuman Rights Clinicに参加できるプログラムを提供している。プログラム修了後に得られる学位は法学修士または法務博士。
 Human Rights Clinicに参加することで、学生は問題解決の過程を通じて、コミュニケーションや情報収集、事実や法的な分析等におけるスキルを積み、クライアントの代理を務められる責任感ある法律家となることを目指す。コロンビア大学法科大学院にはHuman Rights Clinicの他に、環境法や和解調停、セクシュアリティとジェンダー法等に関する7つのClinicがある。
 法科大学院のプログラム修了に要する期間は、LL.M.が1年、J.D.が3年。授業料(2008〜2009学年度)は$44,124(約430万円)。

【アドミッション・ポリシー】
 LL.M.への応募には、法学士号を保有していることが必要。法学士号取得後に最低1年間の職業経験があることが望ましい。
 毎年、50カ国以上から約210人の学生が入学する。
 J.D.は、アメリカでの弁護士資格取得のために米国法曹協会認定の法科大学院で提供されるプログラムであり、3年間でアメリカ法を集中的に学ぶことから、応募者のほとんどがアメリカ人である。応募には、一般的に、何らかの学士号を保有していることが必要。J.D.プログラムへは約8000通(2008年)の応募があり、合格率は14.8%。うち、女性は49%、留学生は9%、「マイノリティ」は32%である。

【授業内容】
 法科大学院の学生は、法科大学院と学内の他学部(departments)で開講されているコースから選択、聴講することができる。以下は、2009年春学期に開講されたコースの一例である。

法科大学院にて
多国籍ビジネスと人権、国際人権アドボカシー、移民法と政策、ニュルンベルク裁判と戦争犯罪法、人種と貧困法、国際人道法、法とホームレスに関する政策、難民法と政策、憲法と外交、EU法と機構、学外研修:国連、連邦インディアン法、ジェンダー・ジャスティス、国際環境法、国連の統治機構法、ヘイトスピーチと暴力の扇動、学校における人種差別撤廃:アメリカと東ヨーロッパ・ロマ(ジプシー)の比較、アメリカと国際法制度
SIPAにて
石油・人権・開発、人権/倫理のグローバル化、企業の社会的責任、気候変動・開発・人権、ジェンダーと国際人権、人権:ポスト共産主義のユーラシア、人権再考、人権スキル・アドボカシー、世界の貧困:分析/政策
公衆衛生大学院にて
疫学方法論?人権侵害を測定する、ジェンダー・セクシュアリティ・医療における調査
GSASにて
人権入門、宗教と人権、人権と国際組織
学部(undergraduate)にて
人権の理論と実践、歴史と人権、多様な世界における人権、ナショナリズムと現代世界の政治、人権と世界正義

【学生】
 調査当時、Human Rights Clinicには、LL.M.の学生4人とJ.D.の学生12人の計16人が参加していた。
 LL.M.の学生は、学術機関、裁判所、公共サービス、公民権・人権運動、NGO、国際組織、プライベート・セクターで法律に関わっていた背景を持つ。
 Human Rights Clinicに参加したLL.M.卒業生の多くは、国連や地域的人権機構、国際人権NGOで人権活動家として活躍している。

2-2 SIPAのプログラム
山下梓さん【プログラムの概要】
 SIPAでは、国境を越えて複雑化する問題を理解することのできる国際関係の専門家・コンサルタント・実務家の養成を目的としたMaster of International Affairs(国際関係修士、MIA)を含む7プログラムが展開されている。
 MIAプログラムでは、学生は、国際関係の主要分野において求められる質的・量的分析スキルと実践的マネジメント・スキル、政策に関する膨大な知識や外国語能力を身に付けるための授業に参加する。人権を冠する学位は授与していないが、1980年代半ばより、人権を学びたい修士課程の学生を対象にHuman Rights Concentration(人権専攻)プログラムを設けている。プログラム修了後に得られる学位は国際関係修士である。
 SIPAには、人権を含む12のテーマ別専攻と、アフリカ、東アジア、東・中央ヨーロッパ、ロシア・旧ソヴィエト圏、ラテン・アメリカ、中東等8の地域別専攻があり、テーマ別・地域別専攻からそれぞれ一つずつ選択し、研究を行う。
 プログラム修了に要する期間は2年。授業料(9ヶ月分)は$36,764(約360万円)。

【アドミッション・ポリシー】
 MIAへの応募には、学士号かそれと同等の能力を有していることが必要。学部において、マクロ・ミクロ両経済学を履修、少なくとも1つ以上の外国語を勉強していることが望ましい。
 インタビューに応じてくださったSIPA人権プログラム担当で人権研究センター共同代表であるElazar Barkan教授によると、職業経験のない出願検討者は「入学が1年以上遅れることになっても、就職やインターンシップによって経験を積むことが望ましい」とのことである。

【授業内容】
 MIAプログラムでは、以下に加え、上述の通り地域別・テーマ別専攻に沿ってコースを選択する。
必修コース
国際関係・国際法、国際関係・国際人権法、国連や国際組織・人権スキルやアドボカシーに関するコース(例:平和構築/平和維持、国際組織と国際政治、人権スキルとアドボカシー、グローバル・ガバナンス・規制・国際組織に関する法)
選択コース
国連学、人道問題、国際紛争解決、人権と人道法、女性の権利、難民の権利、経済的・社会的権利、ビジネス・労働と人権、開発の権利、健康と人権

【学生】
 人権専攻の学生は、入学時の平均年齢が26〜27歳で、ほとんどが3〜5年の職業経験を持つ。職業経験がなく、短期間のフィールド・ワークやインターンシップのみを経て学部卒業直後に入学してくる学生は、全体の約5%。SIPA全体では、留学生の割合が48%に上り、約100カ国から集まる。
 人権プログラムには、1学年につき約30人の学生が参加し、圧倒的に女性が多い。
 MIAプログラム修了者の89.7%が就職・進学(2006年データ)。調査対象となった344人(回答者271人)中、パブリック・セクターが66人、プライベート・セクターが110人。パブリック・セクターでは、各国政府機関、国連機関、世界開発銀行等。プライベート・セクターでは、21%が金融サービス関係ともっとも多い。NGOへの就職は9人。
 人権専攻者の多くが、卒業後は研究職ではなく、国際機関やNGO等の現場で働くことを希望している。

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