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2009年度海外調査報告

テーマ  大学院における人権プログラム・ヒアリング調査(イギリス)について
講 師  李 嘉永さん(部落解放・人権研究所)


はじめに
1.ロンドン大学コモンウェルス研究所「人権の理解・保障MAコース」
2.オックスフォード大学生涯学習学部「国際人権法MStコース」
3.イースト・ロンドン大学「ソーシャル・ワークMAコース」及び「国際ソーシャル・ワークMAコース」
おわりに

【1.ロンドン大学コモンウェルス研究所「人権の理解・保障MAコース」】

 ロンドン市内の中心部、大英博物館に程近いラッセルズ・スクエアに位置するコモンウェルス研究所(Institute of Commonwealth Studies、以下ICS)は、1995年に、「人権の理解・保障MAコース」を開設した(2)。インタビューに応じてくださったマーカス・エリッジさん(学生支援担当)は、設立の経緯について、次のように語った。冷戦終結以後、コモンウェルス諸国をはじめ、国際社会がグローバル化の中で大きく変容し、不安定化したため、人権活動の重要性が高まった。そこでICSは、各国での人権活動実践を担う人材が必要とされたことに対応し、このコースを設置したとのことである。ロンドン大学は、20ものカレッジを擁する巨大な大学であるが、数あるカレッジの中でICSにこのコースが設置されたのは、コモンウェルス学で培われた地域研究の蓄積が、現場の人権活動家養成にとって、有用であったことによるものと思われるとのことである。
  学生は毎年50人程度を受け入れており、その多くがイギリス国内出身の学部卒業生であり、4分の1ないし5分の1程度が留学生とのことである。相対的にコモンウェルス諸国出身の留学生が多いが、アドミッション・ポリシー上の制約によるものではなく、奨学金の機会がコモンウェルス諸国で比較的多いことによる。NGO経験者や、軍隊出身者も受講することが多い。
 カリキュラムに関しては、3科目とインターンシップ(Placement)、そしてジュネーブ・スタディー・ツアーから構成されている。科目の内容については、ユニット1において、社会科学・人文科学の広範なアプローチから、人権や人権侵害についての理解を深め、ユニット2において、各機関(国際機関やNGO、政府機関など)が実際の人権保障活動の場面で採用している戦略を検討する。さらにユニット3は、国際法が人権保障においてどのような意義があるかを、具体的なケースの検討を通じて理解することを目的としている。これらの科目は、理論上または法的に認められる権利が、現実の生活でいかにして実際に保障されるかを理解し、またそのために必要なスキルを身に付けることを目指している。
李嘉永さん  また、受講生は、在学中、人権活動組織への自発的な参加が奨励されており、ロンドンをベースとした多数の人権NGOが、このコースの学生をインターンとして受け入れている。頻度としては週1日、6ヶ月程度の参加が求められ、各組織が実施する調査や資金収集、ロビイングなどの業務に従事することを求めている。また、ジュネーブ・スタディー・ツアーでは、子どもの権利委員会や人権理事会の会合を傍聴するとともに、国連人権高等弁務官事務所や政府代表、その他国際機関の職員などにヒアリングを行うなど、実際の国際人権保障の現場を見聞することを通じて、実務能力の育成にも力を入れている。
  ただし、国内人権機関との連携については、コースそれ自体として協力関係はないとのことである。とはいえ、インターン先のNGOには差別問題を取り扱うものもあるため、その関係で何らかの経験をしている可能性はあるとのことであった。
 学費はイギリス・EU出身学生が年間4,526ポンドに対し、留学生は9,933ポンドになっている。しかし、コース修了後、国際機関や政府機関、さらには有力な人権NGOのポストを得る機会に恵まれており、投資としては高すぎることはないだろうとのお話であった。

(2)コースの概要については、コモンウェルス研究所の人権の理解・保障MAコースのサイトを参照。
http://commonwealth.sas.ac.uk/ma_human.htm(2009年8月24日掲載確認)

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