国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
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2009年度海外調査報告

テーマ  大学院における人権プログラム・ヒアリング調査(イギリス)について
講 師  李 嘉永さん(部落解放・人権研究所)


はじめに
1.ロンドン大学コモンウェルス研究所「人権の理解・保障MAコース」
2.オックスフォード大学生涯学習学部「国際人権法MStコース」
3.イースト・ロンドン大学「ソーシャル・ワークMAコース」及び「国際ソーシャル・ワークMAコース」
おわりに

【2.オックスフォード大学生涯学習学部「国際人権法MStコース」】

 オックスフォード市中心部に広がるオックスフォード大学のカレッジ群の中で、やや北よりに、通信教育や夏期講座などを主管する生涯学習学部が事務所を構えている。この生涯学習学部は、1999年に、国際人権法MStコースを開設した(3)。コースの概要について、責任者のアンドリュー・シャックノウブ博士にインタビューを行った。
 オックスフォード大学では、コース設立以前から、国際人権法に関するサマー・スクールを開催していたが、参加者から、より専門的に知識を深められるような通信制の修士コースを開設してもらいたいという要望があがった。これを受けて、2年間の通信制のコースを開設したとのことである。このコースは、国際人権法実践における次世代のリーダーを養成し、支援することを目的としており、とりわけ、国際人権法を活用できる人材の育成を狙いとしており、そのために、法の実施や人権アドボカシー・スキルの開発を重要視している。
李嘉永さん 毎年、25人から30人程度の学生が入学しているが、選考にあたっては、職務経歴やジェンダー、地理的配分に関して、多様性を確保するよう努めており、多くの学生がNGO職員であるけれども、国際機関や軍隊、大学、メディア関係者、医療従事者など、多彩な人材を、これまで受け入れてきた。
 このコースの特徴は、なんと言っても通信制を採用している点である。1年目で3週間、2年目で2週間の夏季レジデンス期間中、集中講義を受けるためにオックスフォードに滞在する必要があるが、その他の期間、各受講者は在住する国・地域に居ながら、インターネットを通じて、課題の提示や資料の提供を受け、個々のテーマに関する討論に参加することが求められる。シャックノウブ博士によれば、このような通信教育は一見楽そうであるが、毎回の討議には20時間ほどの予習が必要であり、決して易しいコースではないとのことだ。
 カリキュラムの構成は、国際人権法の枠組みとしてはきわめてオーソドックスなものである。国際人権法概論Tでは、国際人権法の基本的な枠組みと原則、今日的な課題が検討され、概論Uでは国際刑事法と武力紛争法(国際人道法)が選択科目として受講を求められる。国際人権法の履行と発展Tでは、地域人権システムの役割について検討することとし、アフリカ、米州、欧州の各地域人権システムの基本文書・制度、手続き、判例について議論するのに加えて、アジア・イスラム圏でのイニシアティブについて学ぶ。履行と発展Uにおいては、国際人権規約のいずれかを選択して、制度内容や近年の展開を検討する。さらに、「危機にさらされる人びと」という科目では、子どもや難民、少数民族や先住民族、女性などに焦点を当てた国際人権保障の枠組みが検討される。これらの科目を踏まえて、学位論文の執筆が求められるのである。
 このコースでは、いわゆるインターンシップについては特に求められていない。というのも、そもそも受講生は一定の人権活動についての経歴があることを前提としてアドミッション・ポリシーが組み立てられており、カリキュラムも、人権活動を実践している人びとがより専門的な国際人権法の知識を得ることを目的としているからである。また、インターンシップの効果について、疑問があるという意見も聞かれた。
 このコースは、他の大学院人権コースに比べて学費が破格であり、英国・EU学生でも16,045ポンド、留学生でも16,775ポンドである。これは、オンラインサイトの維持管理や教員の報酬、研究室の管理費にいたるまで、すべてが学生の学費でまかなわれているからである。また、学部としての財政的支援の仕組みも特にはなく、学生の経済的負担はきわめて重い。ただし、博士によれば、大抵の学生は、その学費を職場が助成しているとのことである。学生の進路としては、多くが所属組織の中で昇進することとなるが、場合によっては他の機関に移籍することもある。

(3)コースの概要については、オックスフォード大学生涯学習学部の国際人権法MStコースのサイトを参照。
http://humanrightslaw.conted.ox.ac.uk/MStIHRL/index.php(2009年8月24日掲載確認)

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