国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
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1.最近の我が国の人権の状況
  ・社会福祉基礎構造改革の狙い
2.我が国社会の深刻化する問題
  ・欧州における状況と「ソーシャル・インクルージョン」の理念
  ・CANの活動
  ・ポスト地対財特法への活用
3.環境政策の変化
  ・環境・社会・経済の融合
4.国際人権大学院大学(夜間)への期待

2.我が国社会の深刻化する問題

 そこで次に、「我が国社会の深刻化する問題」ということに触れたいと思います。福祉の世界で仕事をしてきますと、なかなか福祉の施策だけでは解決できない問題がたくさん存在しているのではないかという事が気になりました。そこで福祉の基礎構造改革の仕事が終わった後、どうしてもこの仕事だけはやっておきたいと考えて始めたのが、「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」です。何か今後の社会福祉の本来のあり方というものの道しるべを得たいという事で始めたのがこの検討会でございます。
 我々、社会福祉を専門にやってきた人間にとっては先程も言いましたように、貧困という横の軸でとらえ、また障害を持っておられる方々の問題という目で色々な制度が作られていきました。いわゆる福祉六法というものがございます。例えば、身体障害者福祉法・知的障害者福祉法・児童福祉法などです。また、貧困に対しては生活保護法があるのですが、しかし、それらだけの法律では対応しきれない問題が、現在多くなってきているのではないかと思います。
 特に、私にとって非常に衝撃的だったのは、2002年2月に宇都宮で発生した母子家庭の子どもの餓死事件です。宇都宮の母子家庭で、お母さんは20代の人、お子さんがお一人で2歳の女の子でございました。その母子家庭では働き手がないために電気代もガス代も払えない状態になり、電力会社が料金未納ということで電気を切ってしまう。そして、とうとうその2歳の女の子は、この豊かな時代に餓死をしてしまうんですね。それがちょうど私が生活保護を担当している局長でございましたから、なぜ生活保護が適用にならなかったのかという事と、なぜそうなったのかということについての疑問といいますか、悔やみというものがありました。例えば、電力会社が電気を切る際に一言、この母子家庭は本当に貧困でちょっと問題があるぞ、何とかしなくちゃいけないんじゃないですかということを、福祉事務所に一言連絡をしていただければ、場合によっては防げたかもしれない。人によっては、なぜこのお母さんが生活保護を申請しなかったのかということを言う人もいますが、むしろ周りの人がなぜ助言をしなかったのかというふうな感じを受けました。この状況を見てみますと、やはり近所の人から孤立してしまっていたという問題でございます。
 また自殺ということについても、1998年度までは2万人台だったものが、1999年度から2001年度では3万人を超えているという状態になっています。

炭谷茂さん 一方、先程言いました児童虐待にしても、1990年から児童相談所で統計を取り始めているのですが、1990年では、児童相談所に報告があった事例というのは1,000件程度だったものが、2000年度の状況をみてみますと2万人を超えるものが児童虐待として報告されるようになってきています。また、ホームレスの問題なども、このような現在の福祉の問題から抜け落ちてきている問題なのではないかと思います。
 この問題を考える際に重要な軸というのは、結局社会から孤立している、もしくは社会から排除されているという問題で見なければいけない。これが新しい社会福祉を見る場合の軸なのではないか思います。これまでの社会福祉というのは貧しさとか障害を持っているかという軸で見てきた訳ですが、その軸だけでは捉えきれず、社会から排除されている、もしくは孤立しているという軸で考えなければ、捉え切れない問題が多くなってきています。何故このようになったかという事について改めて言うまでもありませんが、結局は地域社会の問題、家族の問題、また企業の問題等が一般的に挙げられるだろうと思います。家族の絆が弱くなった、地域社会の助け合いの相互扶助能力が弱くなった、企業もだんだんドライになってきたという事が挙げられると思います。

 私はむしろもう一つあるのは、福祉行政の問題ではないか思います。結局現在の福祉行政というのは、法律ができて専門化されていき、福祉が進めば進むほど、法律が出来れば出来るほど、その谷間に落ちる問題が生じ始めてきている訳なんですね。つまり福祉というものは、法律が出来れば法律の対象になる人はこうだと、その要件とは何なのかということを書くようになるんですね。
 例えば、外国人は駄目だとか、住所要件が問われるとかです。また福祉のサービスについても、福祉制度が充実をすればするほどこの要件に合わない人、適応することの出来ないサービスが出て来る訳なんですね。これを私は福祉のパラドックスと呼んでおりますけれども、制度がそうなって福祉サービスに携わる職員自身も法律にこだわるとか、法律に従って仕事をする為にニーズに対して十分適応できなくなってきているという事も言えるだろうと思います。

 一方、行政の側だけではなくて、社会福祉法人の仕事の仕方も、公からお金の出るものだけの仕事にだんだん限定され始めてきているのではないかと思います。逆に、戦前の社会福祉というのは、まさにニーズ本位で、ニーズがある限りそれをやろう、これは行政だけではなくて、例えば戦前は社会福祉法人はありませんでしたが、慈善団体といった団体は公からお金が出る・出ないに関わらずやっていたという事だろうと思います。そのような団体や行政の姿勢によってこのような問題というのは、一応何らかの形で解決されてきたのではないかと思います。それでは、このような問題というのは日本だけなのかと思いますと、どうも先程の地域社会・家族の問題と社会福祉制度の問題というのは世界共通にあらわれてくる訳です。

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