(CANの活動)
そこでたまたま、私自身英国で長い間勉強をし、仕事をさせていただきましたので、2年前、日英のシンポジウムというものを開きました。これはまったく個人的にやったものでございます。イギリスからレーミングという上院議員に来ていただきました。ちょうど私が英国で仕事をしている時、レーミングは英国の厚生省の局長でございました。たいへん親しく付き合っていたのですが、彼がブレア政権の時に上院議員になりましたので、これを機会にレーミングを向こうのトップにして、日本側は私を副委員長という形にさせていただきましたけれども、日本と英国の間で一緒になって勉強していこうというような機構といいますか、仕組みを作った訳でございます。これは全て厚生省と何の関係もなく、公的なものではございません。誤解のないようにお願いします。
その時たまたま英国から、「コミュニティ・アクション・ネットワーク(CAN)」という、団体の人が来てくれました。そしてCANのブレイショーという女性の話を聞いた時びっくりした訳です。どういう事かと言いますと、まず対象に捉えたのは、英国で第2番目のスラム街であるブロムリ・バイ・ボウという地域の問題を取り組んだというんですね。ブロムリ・バイ・ボウという地域は、約50カ国の言葉が話されているという事でした。50カ国語ですから50カ国からの出身者が来ている、非常に貧しい街というふうに考えていただければと思うのですが、今から10数年前に、そこに住んでいたジーンという、母子家庭で問題が生じる訳です。そのジーンという母子家庭の母親が、あの進んだイギリスの福祉サービスや医療サービスを一切受けることなく癌で亡くなってしまうんですね。そうしますと、なぜ医療サービスも受けられないで亡くなってしまったのか、住民達は英国の福祉部門に対して、また保健医療部門に対して責任を追及するんですね。なぜジーンという女性の問題を発見できなかったのかという事を追求する訳です。それに対して公側の反応というのは、私どもも、もしそういう情報があれば必ずサービスを提供できたが情報がなかったとか、そういった水掛け論で終わってしまうんですね。
そこで住民達は、水掛け論をいくらやっていても埒があかないと、それでは自分達で診療所を造ったらどうだろうかという事で、1億9,000万円をかけて、そのうちの8,000万円は補助金で貰うのですが、残りのものは有志でお金を借りて、まず診療所を造ります。それから診療所だけではなく、保育所を造ろうと自分達で造るんですね。更には学校といいますか、日本で言えば専門学校のようなものの一環として、ダンススクールを造るんですね。そうしますと住民の中には昔ダンスをやったことがある人がいると、そういう人達を先生にして地域の子ども達に教えるといった事を始めます。そうするとダンスの教師は今までは収入がなかったのですが、教えることによって教授料で収入を得ることが出来る。子ども達の中には才能のある子がいまして、今、そのうちの1人は、世界一のバレエ団である、ボルショイバレエ団とともに世界の双璧と言われる、英国のロイヤルバレエ団のメンバーの中に入れられるというまでに発展しています。それから更に、やはり住宅を直さなくちゃいけないという事で、なんと5,000戸、日本円に直すと約360億円のお金を投入して住宅を造るんですね。
彼らのこれら全ての考え方は、決して公に依存しないと、もちろん公からお金は出してもらうかも知れないけれど、これを公がやるんじゃなくあくまで自分達が主体になり、CANという団体が主体になってやるんだと、そして利用できるものは何でも利用する、公のお金もそうですし、企業にしても一流企業からは色々と支援してもらうという考え方であり、彼ら自身はCANを自ら社会起業家(Social entrepreneur)として、自分達で社会的な事業をやっている、決して公に依存するのではなく、自分達で自立してやっていくといった考え方を示す訳です。
これは非常に成功して英国で第2番目のスラム街が、今や2016年にオリンピックを誘致しようと、考えているというふうにも言っていました。このCANの行動・活動というのは、まさに「ソーシャル・インクルージョン」であり、みんなで社会の仲間に入れて、みんなで地域づくりをしていこうという考え方が如実にあらわれていると思っています。
実は2年前にこの話を聞きまして、更に詳しくこのCANの活動について聞こうという事で、去年、日英シンポジウムを大阪府や大阪市等と共催し、CANの活動について説明をしていただきましたので、私の話した事はあの事を言っているのかとご理解いただいて、また既に向こうと相当コンタクトをとっていらっしゃる方も多いのではないかと思います。
CANの活動というのは、このようなソーシャル・インクルージョンといった理念に基づいて実際のまちづくりをやって、大きな成果をあげている、現在のブレア政権の社会政策における中心部分をなしていると言えます。
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