3.環境政策の変化
次に、「環境政策の変化」という事についてお話をしたいと思います。先月、8月26日〜9月4日までヨハネスブルグでサミットが開かれました。しかし具体的な目標が決められなかったとか、どうも盛り上がらなかったなあということで、日本のマスコミや環境のNGOの中では、今回のサミットは失敗だったんじゃないかといった評価をする人がいます。
確かに1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで行われた地球サミットでは、「地球温暖化問題」「オゾン層が破壊されている」といった地球環境の問題が具体的に取り上げられ、例えば地球温暖化については地球温暖化を防止する為の枠組み条約という国際的な取り決めが決められるなど、大きな成果が目に見えたものでした。それに対して今回のヨハネスブルグサミットは、具体的な期限のついた目標が定められていないという事で、一言で言えば燃え上がらないサミットだったと言う人がたいへん多い訳ですけれども、反対に私は今度のヨハネスブルグサミットは、たいへん良いサミットだったのではないかと思っています。確かに1992年の時のような派手派手しい事はありませんでしたが、今回のヨハネスブルグサミットで決められた事項や討議された事項をしっかり読んでみると環境の本質というものが出ているんですね。
一言で言えば、日本人の考えている環境や日本のマスコミ・環境NGO・環境行政をやっている人達が考えていた環境を、ヨーロッパの人、またアフリカの人と実際に国際舞台に行って議論をしてみると、どうも日本で考えてきた環境というものとズレがあるなあと感じた人が多いように聞いています。環境政策というものは、一言で言えば、人間の生存なり生命なりと結びついて議論し、人権ということと密接に関係しているという事なんですね。まさに生きるか死ぬか、人間としての存在が問われ、また人間の人権が充足されるかどうかというところにあるといった事が明確に示されたサミットだろうと思います。それで実際に日本から行った方々がはっとするんですね。向こうの人と話してみて、環境というものはこういうものだったのかという事を感じた人がいるということを、新聞の報道などにも時々出てまいります。
(環境・社会・経済の融合)
それから「環境と社会と経済の融合」ということが明確になった。環境と経済というのは、よく両立という言葉を使いますが、両立ではなくて環境と社会及び経済というものは、融合して考えていかなければいけないんだという考え方ですね。決して環境と経済が調和しなければいけないとか、日本の産業界がよく使うような「環境と経済の両立」という軽いものではなくて、三者が一緒になって求めていかなければいけないというものが明らかになった国際会議だったのではないかと思います。
非常に分かりにくい表現ですけれども、例えば貧困という問題があります。1992年リオ原則の時代における世界の貧困者の定義は、1日1ドル以下の生活をしている人ということですが、その人数が10億人だったんですね。それが2001年では5割増しの15億に、世界の人口の4分の1にまで広がっているという問題があるわけです。貧困という問題と環境という問題と本当に密接につながっていて、貧困を解決する為には環境を解決しなければいけない、環境を解決する為には貧困を解決しなければいけないというように、貧困という問題は経済問題であり、社会問題だろうとも思います。
また例としてよくあげられたのは、エイズの問題だろうと思います。ヨハネスブルグサミットが開かれた南アフリカでは、約500万人がエイズ患者であると、そして妊婦の4人に1人がエイズウィルスの感染者であったということです。
こういう問題というのは、本来は日本人からすれば貧困、エイズが環境と何の関係があるんだといった感想を洩らす人もいましたけれども、そうではなくて、それらはみんな不可分に結びついている、そういう目で環境というものを捉えなければいけない時代にきているんだろうと思います。こういうものがしっかりと国際会議の中で確認できたという事が、たいへん成果のある良いサミットであったのではないかと思います。
具体的な世界の動きとして、たぶん初めてお聞きになる方も多いと思いますけれども「GRI」という組織があります。「Global Reporting Initiative」というものです。GRIというのは、世界の企業が、企業活動として持続可能な社会をめざしていこうと、その為の企業活動としてどのような事をしたらいいかという事をガイドラインとして定めている団体なんですね。そしてGRIが、ちょうど先月、8月31日に出した2002年のガイドラインがあります。このガイドラインには、先程私が強調いたしましたように、これからの環境政策というのは、環境だけを単独に追いかけていくのではなく、経済的な問題、環境の問題、社会的な側面があり、三番目の社会的な側面の中には、きっちりとヒューマンライツ、つまり人権というものが位置付けられていると、そして相当なウエイトでこれが強調されているという事についてご注意をいただきたいと思います。
企業はこのように、3つのものをしっかりと単に経済だけではなくて、社会や環境というものを融合して求めていかなければいけないといったガイドラインを、先月の31日に出している訳でございます。これは新しい、本当に持続可能な社会を目指すための方式を示すためではないかと思っています。
日本の企業でも、だんだんこのような考え方、先進的な考え方をする企業がございます。日本でたぶん先頭を行っている企業の1つには、イトーヨーカドーがあります。イトーヨーカドーというのは社会的な責任というのを非常に強調している会社の一つだろうと思います。イトーヨーカドーがDow
Jonesの調査によって、環境・社会・経済の取り組みが世界の企業の中で、小売業としてトップになったというふような事が書いてございますけれども、今年度出しましたイトーヨーカドーの環境報告書、(彼らは環境報告書と呼ばないでサスティナビリティーリポートというふうに呼んでおりますが)、イトーヨーカドーのサスティナビリティーリポート2002年を見ますと、たぶん日本で一番立派なサスティナビリティーリポートではないかと思います。いわゆる狭い意味の環境報告書から大きく出たものでございます。
300社程度が環境報告書を出しておりますが、いわゆる環境報告書の中に、このような社会的な側面をしっかりと書き込んでいるというのは数少ない例であり、また、これからの企業のあり方というものについて、示しているのではないかという事であります。まさにこれからの環境というのは、人権も含めた、言わば社会的な側面、狭い意味の環境・経済とそういう面を融合して、環境政策というものを捉えていく時代に来ているのではないかと考えている次第でございます。
環境面で、本日1つだけ宣伝をして皆様方にご協力をいただきたい点がございます。実は私が全力を尽くしてやりたいと思っている仕事の一つですけれども、「地域環境力創造戦略」というものをやる必要があるのではないか思っています。一言で言えば、現在の環境というのは大切だと言われておりますが、草の根、住民が参加するとか民間団体が参加するとか地方自治体が取り組むといった事は結構遅れているのではないかと思います。そこで、そういうものを活性化するために、法律の名前は仮称ですけが、「環境保全活動法」というような法律をつくりまして、住民も民間団体も企業も行政も一緒になって環境力、地域の第一線の環境を豊かにしていくという事が必要なのではないかというふうに思っている訳です。この発想というのは、私自身、長年やってきた福祉の発想と同じなんですね。なぜ日本の福祉が豊かになってきたかと言えば、やはり第一線の福祉を支える力が豊かになったからと言えます。残念ながらこれに比べて日本における環境の第一線の力というのは、地域によっては熱心な所もありますが、全国的に見た時には結構欠けているのではないかというふうに思います。こういうものを立派に、力を、層を厚くしていくという事が必要だろうと思います。大阪府、大阪市もたいへん熱心に環境に取り組んでいらっしゃいますので、ぜひご協力いただければ有り難いと思います。また、個人や民間団体、企業やNPOの方々にも、ぜひ自分達で、先程も言いましたように環境といっても人権というものと密接に関係しておりますので、人権関係の運動団体も是非、環境という面に対しても全面的に一緒になって動いていただくと有り難いというふうに思っている訳でございます。
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