【3.香川大学大学院地域マネジメント研究科の概要】
それでは、私達の大学院、正式名称は「香川大学大学院地域マネジメント研究科」、通称「香川大学ビジネススクール」ですけれども、そのコンセプトはどういうものか申し上げたいと思います。
香川大学の位置する香川県あるいは四国というのは、特定の産業集積とか、あるいは大企業が少なく、いわゆる拠点都市というのが四国にはありません。そのために、民間企業だけあるいは特定の自治体だけを対象にするのでは恐らく地域振興とか地域活性化というのは図れず、広く地域を形成する様々な主体、またそういう経営主体に必要とされるマネジメント能力のある人材を育てることにより地域振興というのは図られるのではないかと考えました。
そういう人材をどう捉えるかといえば、当該の地域に精通したMBAだと考え、本大学院のコンセプトは「地域経済あるいは地域振興に資する教育研究拠点として、地域に精通したMBAを養成する大学院」だというふうになりました。
こういうコンセプトで構成し、そして開設にいたった大学院のごく掻い摘んだ概要ですが、学位名称は「MBA」と通常言いますけれども、日本語で「経営修士」。そして後ろに「(専門職)」というのがつきます。これは、どの専門職も後ろに「(専門職)」とついて、専門職大学院か従来型の修士課程を出られた方の学位なのかということが分かるようになっています。
学生定員は社会人をもターゲットにおきましたので入学定員30人です。やはり日本においては、なかなか社会科学の大学院に学部からそのまま上がる方は少なく、結果的にはほとんどが社会人という形になっていますけれど、一応入学定員は社会人・学部からの学生さん、それぞれ15人ずつです。
それから、授業時間は通常「昼夜開講」という言い方をしまして、昼間に若干の講義を開講していますけれど、社会人が多いですので大半は夜間になっており、18時から21時10分までと、土曜日はほとんど朝から夕方までという授業時間になっております。
授業時間をこういうふうに工夫をしても、やはり社会人の方はどうしても仕事で出席が不可能ということもありますので、先生方の講義をビデオで撮りまして、ビデオライブラリー化することに努め、自習サポートができるようになっています。
それから、修業年限は2年、修了要件はいわゆる単位数で申しますと32です。
カリキュラムは、先ほどのようなコンセプトに合わせるような形で体系化を図っており、概ねの形は「スパイラル体系のカリキュラム編成」というふうに、地域を的確に把握・分析できる能力と、マネジメント能力の双方の修得を目指すような、それをちょうど合わせたようなカリキュラムを一生懸命に編成しているつもりです。
その中でも、地域に精通したあるいは地域振興の研究教育を中心的におきたいので、科目群の中に「地域基礎科目群」というのが織り込まれていることが特徴だろうと思います。この「地域基礎科目群」とは、私達の位置します四国経済事情を様々な立場あるいは観点から検討して、地域の実情をでき得る限り直視し、あるいはどこに問題があるのか把握・分析できることを狙いとしています。
その様々な観点として、「世界における四国」、「日本における四国」、そして、地元そのものに密着して考えてみようということで「地域経済事情」という3科目を構成しました。さらに四国の経済事情を考えるときに避けて通れない切り口として、橋を中心とする社会資本整備を巡る問題がありますので、それで一つの科目「社会資本整備」をつくり、合わせて4科目からなる「地域基礎科目群」をつくっています。
その担当としては、四国に精通し、しかもそういう実態になるだけ近いところで活躍している方々にお願いをしようということになり、「世界から四国を」については、元内閣官房参与の中山恭子さんにこの科目を担っていただき、90分講義を15回していただきました。
中山さんは、ちょうど10年ぐらい前に、四国の財務局長をお務めになったとき、恐らく財務局の所掌を若干超えて四国の経済の活性化をどうしたらいいかという会議を立ち上げられ、ずいぶんとご尽力されました。その上に、世界の観点については皆さんご承知の通りですので、かなり無理なお願いをしましたけれど「四国のことならば」ということでお受けいただき、来るたびに東京との間をとんぼ返りしながら、学生さんと喧々諤々と議論をいただき、また今年度も担当くださっています。
それから、「日本における四国」については、高松というのは支店経済のまちでして、全国企業の支店長さんがどういう状況の中で仕事をされているかお話いただき、そして同時に行政の側面からは四国財務局長さんに日本全体の中でどんな状況だということを議論いただこうとお願いしました。
それから、地域の状況を一番的確に掴むために欲しかったのが「地域経済事情」なんです。これについては、四国の四つの地方銀行、香川県は百十四銀行、愛媛県は伊予銀行、高知は四国銀行、徳島県は阿波銀行ですけれども、その四つの地方銀行の経済研究所の代表の方に、それぞれの県の状況を的確に出していただいて議論いただこうということで、すべての四つの地方銀行が初めてご協力をいただきました。さらにこれらをまとめる形で、四国経済産業局にもご協力をいただいています。
それから、最後に申し上げました社会資本整備の問題については、社会資本整備を整えた側と、それを使う側の論理を勉強したいと思いましたので、整えた側の論理として、四国地方整備局並びに本四公団にその状況をお話いただき、逆に使う側として、四国経済連合会の代表の方にそのお考えを出していただいて学生と議論をするという形で進めました。
それ以外にも実は通常の科目群、分析基礎科目群とか、基礎科目群とか、応用科目群の中にもでき得る限り地域の経済や経営に関わるような内容を入れるよう努力しています。
例えば、マーケティング戦略とかあるいはマネジメント戦略、ファイナンスを考えていただくと、大都市圏でマーケティングをやるのと四国地域でマーケティングをやるのではこれは明らかに違うと思うんです。その違いがどこなのかというところに常に配慮があるような授業科目にしましょうということで取り組んでいます。
そのために、現在、地域企業あるいは自治体、さらには地域におきます産業集積とかまちづくり等について、教員を中心に調査・研究を行って、私達の名称で「地域ケース教材」という教材の開発に取り組んでおり、そういう教材を使って授業を進めていきたいと考えています。
こういったカリキュラムを通して、学生さんたちには様々な地域に精通した能力あるいはマネジメントに関する幅広い能力・知識を持ってもらい、その上で学生生活の仕上げとして「プロジェクト研究」というものに取り組むことになっています。このプロジェクト研究というのは、学生さんたちが抱えている課題解決に向けて、学生と教員複数でプロジェクトをつくって、調査・研究をし、さらに政策提言までもっていこうとする科目です。
これにより、これまで修得をした知識とか能力を統合化し、そして問題解決にあたれるような能力を養ってもらいたいと思っていますが、同時に、そこにはいかにも地域マネジメントのテーマらしいものが挙がってきます。ちょうど2年生が今このプロジェクト研究を始めたばかりですけれども、テーマとしては「中心商店街の活性化」、「地域における温泉地の観光活性化」、「広域行政時代の地域政策」、「地域ベンチャーのビジネスプラン」等々でして、これはいずれも地域の抱える課題そのものだという感じです。
私達の大学院のカリキュラムというのは、一言でいうと、でき得る限り理論的で先端的であるアプローチをいわば地域版にカスタマイズしたような、そういうところに特徴を持たせているのかなと思っています。
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