国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
トップへニュースへ調査研究へ組織概要へ会員募集へプレ講座へリンクへメールを送る
 

 

1.プロローグ
2.「人権プログラム」とは
3.調査・研究の目的及び方法
4.「人権プログラム」開設状況
5.アジア・太平洋地域の「人権プログラム」
6.その特徴と意義
7.インターナショナル・プログラムの課題

【2 「人権プログラム」とは】

  それでは、レジュメに沿ってお話を始めさせていただこうと思います。私たちが「人権プログラム」の調査に着手したのは、大学における人権教育を今後どうしていったらいいのか、という問題関心からでした。その背景には、現在の教育改革、とくに大学改革の問題があります。競争志向・能力志向の教育改革の中で、人権や部落問題に関わる科目等が日本では今後減少させられるのではないかと危惧するなかで、何か強力なバックアップとなるような情報や世界の状況を把握しておきたかったからです。また、大学の同和教育に先鞭をつけてくださった多くの先生方が、ご定年を迎えるようになり、これからの私たちの世代は、大学の中の人権教育と研究をどう維持していくのかが問われていると感じていたからでした。

 次に、日本全体の教育改革をみたとき、大学はもっと「学問の自由」を意識して、人権研究に取り組むべきだと思ったからです。日本には人権教育啓発法という法律があります。つまり人権教育・啓発は、法に基づいて実施すべきものと位置づけられている…すなわち「制度化」されているということです。制度化された人権教育は、小学校・中学校・高校などで、たくさんの実践が行われていますが、初等中等教育の内容は、国家の直接のコントロールを受けます。ですから、人権教育といいながら、権利について教えなかったり、道徳や「おもいやり」の学習だけに、人権教育が狭められていくというような「読み換え」も制度の中では起こりやすい。これに対して、大学には「学問の自由」があるのだから、政策としての人権教育を批判的に検証したり、時宜にかなった人権政策・人権教育政策を提言できる立場にあると思います。大学の教育や研究を強化すれば、現在の、この人権施策が後退をしはじめかねない時期に、「本当は必要なことはこんなことなんじゃないか」ということを提言していく力を、社会が持つことができると思うのです。研究の背景には、そんな思いがありました。

 そんなとき、ふと気づいてみるとポスト冷戦期、とくに90年以降、世界各地の大学に「人権プログラム」が増えていることに気づいたのです。ですから、世界中の大学のこうした実情を調べていけば、日本の大学の人権教育・研究のヒントを得られると考えたのです。

 さて、「人権プログラム」とは、「人権」を冠した学位を取得できる大学院プログラムだと先ほど申しました。大学院には修士号と博士号と両方の課程がありますが、圧倒的多数はやはり修士号です。これは、また後ほどお話の中で詳しく申し上げますが、日本の修士は2年ですが、今、ヨーロッパの大学院で修士というとほぼ1年です。実務家育成志向になっており、1年で人権の実務家を育てようとしています。

 また「プログラム」ですから、単発の授業ではなく、複数の講義や実習、研究指導が系統的に組み合わせられたものです。日本では多数の大学が人権関連科目を設置していますが、単独の科目の開講にとどまっており、複数の科目を専門的・体系的に組み合わせて人権を学び・研究し、人権を冠した学位を取得できるプログラムはまだありません(注:講演当時)。

 科目の組み合わせ方には、おおまかにいえば、2つの大きな柱があります。1つは、法学を中心とするもの、もう1つは学際的なものです。人権というと伝統的に法学の領域の中で研究されてきたから、法学系の人権プログラムはかなり専門的に完成されています。法学修士(LL.M.)などが授与されます。それに対して、最近増えているのは学際的プログラムです。法学関連科目は人権をやるからには抜きにできませんが、そのほか、歴史学や社会学、文化人類学、政治学、心理学、教育学、哲学、倫理学、心理学、こういうものをそれぞれの大学ごとの特徴を出すように組み合わせて実施しています。

 また、法学であれ、学際であれ、共通するのは「インターナショナル・プログラム」であるという点です。英語で教育や研究指導も全部行います。ですから、学生も英語でやり取りをします。そのことによって世界中の学生がそこに来て学べるようにしているのです。これについての賛否両論は後ほどお話しするとして、人権が普遍的なものであるなら、議論をオープンにしていくことは重要です。

 なぜ、このようなプログラムがポスト冷戦期に増えたのでしょうか。その背景には、冷戦終結後の、人権研究・教育に対するニーズの高まりがあります。二極構造が崩壊し、安定的な国際システムヘの模索が始まると、世界では「国際人権レジーム」への期待が高まりました。人権はかつてのような、イデオロギー対立の象徴ではなく、普遍的な基準として世界で「再確認」され、国連も教育や情報提供活動を通じて、人権の本格的な普及活動を開始しました。「人権教育のための国連10年」(1995〜2004)や「人権教育のための世界プログラム」(第一段階・学校教育 2005〜2009)は、こうした国連の取り組みの一部です。そして、こうした国際社会の変化の下、とくに旧社会主義国や発展途上国で、民主化の進展とともに人権を位置づけた憲法の採択や改正、国内人権委員会の設置、学校への人権教育の導入など、人権の「制度化」が進みましたから、人権に関わる専門家・実務家の養成が急務となりました。人権プログラムの設置の背景には、こうしたニーズがありました。

前のページへ 次のページへ

 

 

トップ | ニュース | 調査研究 | 組織概要 | 会員募集 | プレ講座 | リンク


(C) 国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議